ふと思い出した。
彼は私を気に入って、歳も住まいも仕事も何もかも離れていたけれど、とても可愛がってくれた。
不思議な縁だった。出会いは随分前。
何年も経って全く違う土地で再会し、そこからあっという間に近しくなった。
他にも関わる人はいたけれど、彼とはセンスが似ていた。
いいと思うもの、美味しいと思うもの、脳が感じるもの、音のリズム、感覚的なアレコレが。
お陰で沢山のところに連立つ機会があり、多くの有意義な経験を与えてもらった。
それまでの私は、まだ若くて、ちょっとばかり色んな世界を見た気になってた井の中の蛙の様なもので。
今思えば呆れるほど大したものを知らずに居た。
その土地に移ってからというもの、彼らをきっかけに沢山の世界を知る。
私が思うよりも世界は広く、色んな人がいて、色んなものがあって。
仕組みも仕掛けも流れもあって。善も悪も表裏一体。共存して成り立つバランス。
沢山の新しい価値観。
仮面を被ったものは沢山、ほんとうのことはその下に。
海千山千、利権に思惑。色んなものが蠢く日々の時間。
表立ったトップからボトムまで俯瞰で見たり接したり。
学んだ事は数知れず。
人の動かし方、振る舞い方。
合理的な時間と人生の価値。無駄の産み出す価値。
裕福な世界とその世界の遊び。
感覚で繋がる世界とその世界の人たちとしか共有できない遊び。
密やかなる世界。感覚の言語。
挙げていけばきりが無い。
ハイクラスに埋もれる毎日と平行して、
アンダーグラウンドの海を泳ぐ。
或る側面では、一番濃密な日々だったかもしれない。
そこに形式的なものは無かったけれど、
沢山の出会いが繋ぎ繋がれ、時間と人と経験をくれた。
それが今の私の一部となっている事は間違いない。
あの頃見せてもらった時間、
それは失うことの出来ないものたち。
ミュージシャン達とプライベートで会う機会がたまにあった。
ジャンルも国籍も違うが、みな音楽以外も生きるということにセンスがあり、
職人であり、感性の人であり、すごくクールだった。
そして気さくであたたかい。
笑顔とハグと空間のリズム。今でもとても憶えている。
あのセンスと嗅覚を私は忘れていないだろうか。
日々に溺れていないだろうか。
ここのところ考え続けている。
これを聞くと思い出す。
この時の空気感、
楽屋での何気ない会話。
忘れられないはずだったのに忘れていたよ。
刺激と日々が内側に向かい過ぎていやしないか。
視界が狭まってない?
目に曇りや汚れや色眼鏡はないかしら。
私はどこを見ている?
またアフリカにでも行くか。
いや、南米がいいかな。
それとも日本でワールドワイドウェブにダイブする?
大切なのは読み取る力と生きるセンス。そてしてバランス感覚。
見失わないように。失わないように。
こうして省みる作業を、私はずっと繰り返してゆくのだろう。
いつも最高でいたいから。